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災害救援活動 : 熊本地震の留意点
投稿者: admin 投稿日時: 2016-05-03 11:42:20 (2157 ヒット)

熊本地震の留意点
神戸協同病院 上田耕蔵

(1)震度7連続2回発生は被災者に強いストレスを与えている。
 肺塞栓が早期より多数発生している点は中越をはるかにしのいでいるからだ。新潟大学大学院呼吸循環外科の榛澤和彦教授によると今回は4月19日11時までに、車中泊の28人が肺塞栓症を発症し、うち2人が死亡(注)。中越地震では肺塞栓死者6人のうち3日目に1人、残りは5から7日目に発症した。今後も循環器系を中心として震災関連死は多発するものと思われる。
 肺塞栓症は多発したものの、死者は当初の2人だけのようである。肺塞栓症への対策(宣伝、弾性ストッキングの配布など)の効果が上がっていると思われる。

(2)熊本地震の震災関連死の疾患パターンは中越地震に似るだろう。
 熊本地震は繰り返す強い余震、車中避難が多い点、冬季ではないという点では中越地震の震災関連死と似てくる(循環器疾患が62%、肺炎は15%と少ない)思われる。

(3)要介護高齢者の緊急入所や病院入院は比較的スムースに進んでいるのではないかと思われる。熊本地震は帯状の分布をしており、孤立した被災地を除いて、周辺の施設病院は温存されているからだ。中越地震では2週間で要介護高齢者の緊急入所はほぼ完了した。機能停止した病院からの患者移送は早期に終了したようだ。

(4)震災関連死の発生数は約60人かもしれない。
 東日本大震災の岩手県と宮城県の震災関連死(2015年9月末までの集計)は1週間以内に死亡は24.0%、1か月以内33.2%、1ヶ月以上42.8%。東日本大震災では劣悪環境が長期に持続したため、1ヶ月以上の比率が高くなったと思われる。通常の中規模震災では1週間以内、1ヶ月以内、1ヶ月以上で各々1/3ずつに分布するのではないかと思われる。
 熊本県は20日に震災関連死は11人と発表した。20日は14日から1週間にあたる。発表された震災関連死は明瞭に判断できるケースと思われる。今後認定委員会での検討で関連死は増えると思われる。最初の1週間では今回の2倍程度の発生はあるとみるのが妥当だろう。概数で20人は発生した可能性がある。全期間ではその3倍、60人ではないだろうか。(中越地震の震災関連死は約50人)
現時点(23日、10日目)で半数が発生したかもいれないが、今後も発生は続く。

(5)災害サイクル上はあと数日で慢性期にはいる。
 中規模震災で最初の1週間が急性期、次の1週間が亞急性期、3週目以降は慢性期との分類を採用すると、あと数日で慢性期にはいる。
 急性期は絶対的支援不足下での外傷と内科疾患が急増する時期。亞急性期は続く劣悪避難環境下に耐えられない要介護高齢者は緊急入所となり、病弱者は発病して入院となる。2週目終わりには避難所には要介護高齢者や重病者はいなくなる。慢性期は一定落ち着いた段階。ライフライン復旧とともに自宅にもどる人が増え避難所人口は急減する。在宅介護サービスも大半は再開してくる。
 慢性期のポイントは①亜急性期までをなんどか乗り切った高齢者が弱ってくる段階。新たな高リスク者の発見フォローと廃用症候群を予防が重要。②人口の大半は在宅にいる。高リスク者も在宅にシフトする。支援を在宅に向けることと介護サービスの利用を拡大すること。要介護高齢者や障害者で震災前に介護サービスや福祉サービスを受けていない人は在宅で孤立している。探し出し支援フォローすること。

(6)車中避難者はあまり減らないかもしれない。
 中越地震では車中避難は初日で約50%だったが、4日目で11%。今回は強い余震と新たな本震の可能性のため車中避難を続ける人が中越の時より多くなっていると思われる。肺塞栓予防方法の周知や症状あれば病院受診を勧めること。
 余震の推移によるが、それでも慢性期には在宅が最も多い生活場所だろう。

(7)防ぎえた災害死の約40%は早く受診しなかったこと。
 PDD(Preventable Disaster Death:防ぎえた災害死)とは「非災害時でその地域や病院が通常の環境・診療体制であれば救命できたと考えられる死亡」である。厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)にて、東日本大震災の宮城県PDDについて大崎市民病院救命救急センター長山内聡が報告した。主要病院の全死亡868人のうち災害関連死(DRD:Disaster—related deaths)は234例(27.0%)、PDDは102例(11.8%)であった。PDDの原因だが、「医療介入の遅れ」全PDDの39.2%、「避難所の環境悪化,居住環境の悪化」が18.6%であった。
 受診遅れの一因は病院までのアクセス途絶だが、もう一方の原因は患者側の遅れである。高齢者は「自分から訴えない」。周囲が目配り気配りすること。避難所では周囲の目があるが、在宅は孤立している点に留意が必要。

(8)避難所では水とトイレが重要
 阪神大震災で水とトイレの問題が注目された。トイレが和式であったり戸外の非常用トイレは高齢者は使いにくく、水を飲むのを控える。障害者用のトイレやスペースの設置。大きな避難所では福祉スペースが設置されたことだろう。

(9)ライフライン復旧と仮設住宅建設が1ヶ月以降の震災関連死発生を減らす。
 震災関連死は強い揺れと破壊によるストレスと自宅損壊・ライフライン停止による過酷な避難生活により発生する。震災関連死を減らすには衛生環境の改善や早く病院に受診させることなどが必要だが、発生そのものを減らすためには一刻も早くライフラインを復旧させること、住環境の再建→仮設住宅の早期建設が必須。ボランティアによる自宅の片付け支援も必要。<hr>(注)車中泊の28人が肺塞栓症に、うち2人死亡、2016/4/19、M3comによる